例えば右と左に分かれる道があって

パイロット・フィッシュ」大崎善生著を読んだ。10年ほど本箱の隅でずっと埃をかぶっていて、昨年夏の大掃除でようやく発掘された。いつもレモン色のワンピースを着ている由希子さんと、いいやつだけれど由希子さんに「人生の方向音痴」と呼ばれてしまう山崎君とが出会って、長い不在があって、また会った時のことが書いてある。そしてこんなことを話す。
「それにね、私思うの。例えば右と左に分かれる道があって、右に行くことが楽しいと確信して右に進んでいく人間と、正しい道かどうかもわからずに、だけど結果的に右に進んでしまっている人間とどちらが優秀で、そしてどっちの人生が楽しいのかって」
「私みたいに進むべき正しい道がわかっているように思い込んでいる人間は、右の道を迷わずに進んでいく。そしてね、一度その道を歩き始めたらもう戻ることができなくなるの」
「でも僕はあの夜、左の道に入り込んで、そしてもう戻れなくなっていた」
「そうじゃないの。 今になるとわかるの。あなたが左に進んだわけじゃないの。ただあなたはいつものように道の前に立ち止まって、何も選ばなかっただけ。問題は私で、私がどんどんと右の道を歩き始め、気がつくともう戻れない場所にいた」p.222~p.223
そんな風に話したあと山崎君はこんな風に思う。
「由希子の着る淡いレモン色のワンピースを見て僕は初めて思った。そういえば初めて出会ったときも、僕の部屋に訪ねてきてくれたときも、そして喫茶店で会った最後の日にも、いつも同じ色のワンピースを着ていたなと。それからこうも思った。今そのことに初めて気がついたように、年月とともに失っていくものがあると同時に、それとともに生まれてくる感覚だってあるのではないだろうか」p.242~243
本の帯には愛しくせつない至高の青春小説とあった。山崎君はその後うまくやっているだろうかと、ちょっと心配だ。由希子さんはしっかり者だからうまくやっているに違いない。そういえば早川義夫に赤色のワンピースという歌がある。
https://www.youtube.com/watch?v=U6Rh5Vr21JU

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