いつも不機嫌な顔をしている漱石さんだけれど

然し死ぬより美しい女の同情でも得て死ぬ気がなくなる方がよからう」いつも不機嫌な顔をしている漱石さんだけれど、こんな色っぽいことも言うから好きだ。

2012年8月31日
最近、なぜか漱石さんを読んでいる。断片で時々出会う言葉がおなかの奥まで、滲み込むことが多いもんだから、いまごろようやく、漱石さんをちゃんと読んでみようということになったのである。それで、まづ岩波文庫漱石書簡集。漢籍であるとか、文語体などというものがからきしだめなものだから、中々たいへんなのだが、ただただ読み進んでいると、理解すると言うより、生きねばと思う気持ちがわいてくる、それはある絵の前で立ち止まって、よく分からないけれど、いいなぁと思う感じと似ている。そんなこんなで読み進んでいると、突然、この『君、弱い事を云ってはいけない。』に出くわしてしまった。この言葉は、20年ほど前、ある詞華集の中で出会っていたから、もともとはこんなところにいたのだねぇと、再会して嬉しかった。中々座右の銘なるものに出会えないでいるのだけれど、これはもう忘れない!立派な漱石さんなんだけれど、書き足しの一行もまた漱石さんなんだなぁ。
『君、弱い事を云ってはいけない。僕も弱い男だが弱いなりに死ぬまでやるのである。やりたくなくったってやらなければならん。君も其通りである。死ぬのもよい。然し死ぬより美しい女の同情でも得て死ぬ気がなくなる方がよからう。』岩波文庫漱石書簡集、pp147