すき焼きの材料の買い物にでたつもりが

それでも重いすき焼きの食材をぶら下げて,歩き続けた。そしてついに分かった。きのうきょうできた多摩ニュータウンとは訳が違うのだ,ここは万葉の道,万葉人たちが,こんな典雅な歌を詠みながら歩き続けた道なのだ。

子持山 若鶏冠木の 黄葉つまで 寝もと我は思う 汝は何どか思う 
作者未詳
子持山の楓が萌え木色に色美しい。この若緑の葉が紅黄色に変わるまで、長い間ずっと、私はお前と共寝していようと思う。どうかお前の本心を聞かせて欲しい。

我が門の 榎の実もり食む 百千鳥 千鳥は来れど 君そ来ませぬ 
作者未詳
我が家の門の所にある榎の実を,たくさんの鳥が食べにきている。鳥はあんなに来るのに、たった一人のあなたがお越しにならないことよ。

紫陽花の 八重咲く如く やつ代にを いませわが背子 見つつしのはむ
橘諸兄
あじさいが幾重にも咲いているように,幾代も生きてください、あなた。いつもいつもお姿をお慕いしていますから。

これでようやく分かった,平城ニュータウンの歩行者専用道は,万葉人たちが歩いた道と交叉し,つながっていたんだ。この落ち着きはこういうことだったんだ。ぼくたちは歩行者専用道とか,ペデストリアン・ネットワークなどという借り物ではない、こんなに柔らかで穏やかな道を持っていたのだ。すき焼きの材料の買い物にでたつもりが,万葉人と遊んでしまった。それにしても,こんな粋な計画を立ててくれた旧住宅公団の技術者たち、えらいっ!