やっぱりもうおじいさんだから

「普通のことをただ普通に語っているだけ」おじいさんになるのは本当に難しい。

2021年4月11日
最近はやっぱりもうおじいさんだから、どんなおじいさんになりたいかということばかり考えているのだけれど、そんな中でも松浦寿輝さんが書く川村二郎さんのことがとても印象に残ってる。ところでこの松浦さんもとても難しい事を書く人だからおっかなびっくり読んでみたのだけれど、もっと松浦さんが読みたい。
「川村さんはうつむきかげんになって小声で呟かれる事もあったが、私たちが同席する集まりのような場では、だいたいは真っ直ぐ前を見て、普通の声で普通に語られた。自分が考えている事をただ率直に、衒いなく言う。そっくり返って自分以上の、或いは自分以外の何かを演じる事もない、周囲を気遣って妙な遠慮をする事もない、人を嬉しがらせようとして言わなくてもいい社交辞令を口にする事もない、浅はかな自己卑下や阿諛追従などはもちろんかけらもない。普通のことをただ普通に語っているだけのその声が、わたしには懐かしくてならない。そして人が老いと共に獲得してゆくべきは、そんな声、そんな語り口ではないかという切実な思いが今しきりに脳裡を去来する。」p.203