どんな世の中であれ人間の世界に本来具わっている『良いもの』を

  • このおやすみにも「酒肴酒」をぱらぱらと読み直しているのだが、
    「例えばロンドンで朝起きると、自分がロンドンにいるのを感じる。そういうものがない町は、本当をいえば、まちというものではない。」p.166
    なんて、ただただ酒と食べ物の話に止まらず、町を語る本でもあるのだから。

    2019年5月4日
    「父 吉田健一」には娘の暁子さんから見た吉田健一のことが書かれている。20年ほど前から、ことあるごとに健一さん健一さんと言ってきた。でも疎遠になったり、やっぱりいいなと思ってみたり、近づいたり離れたりを繰り返してきた。それは吉田さんのことをただただお洒落でかっこよくていつも上機嫌な紳士だからくらいにしか理解してなくて、 どうしてこんなに魅かれるのだろうということをきちんと分かっていなかったからだと思う。でも今回、暁子さんが彼女にとっても少しわかりづらかったであろうお父様のことを書いてくださって、そういうことだったんだ、そういうことならやっぱり好きだなぁ、そしてついには、残りもそんなに長くはない人生、吉田健一についていこうとまで思ったのだった。この思いがけなく長い5月の休暇の最大の成果は、吉田健一・暁子父娘とゆったりとした気持ちで出会えたことだった。
    「小説を書こうとしてうまくいかず、「まっすぐな線が一本でも引ければ」と思って批評をやってみることにしたと、父がどこかで書いていた。・・・父の一生、生活は、まっすぐに引いた線と言っていい。」p.7
    「父の一生は、ものを書きたくてものを書き始め、結婚して家庭を持ち、ものを書いて生計を立て、犬を飼い、面白い本、良い文章を読み、美味と酒に親しみ、良い友人と付き合い、旅を愛したというもので、いわば単純である。」p.11
    「大学に入った頃に「英国の文学」を読んで、批評家吉田健一に一目惚れしたことは父に言ってあったと思うが、・・・・・」p.36
    「言葉に惹かれ言葉に生きた父は、政治にも経済にも志さず、この世の中に対して働きかけようとはしなかった。しかし、どんな世の中であれ人間の世界に本来具わっている『良いもの』を―父にとってそれは言葉であり、酒であり、友人であり・・・ー 精一杯味わった。父にとって可能な限り徹底して味わった」p.45

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