いえ、負け続けることで、勝つのです

趣味は新聞の切り抜きかなと思うほど、部屋中、紙で溢れてる。ほとんど読み返すことなどないのだけれど、いくら何でも少しは処分しないとと読み返していたら、こんなのが出てきた。およそ10年前の投稿だけれど、僕の残りの人生を明るく照らす今でいうドリアン助川さんの言葉だった。そうかそうだったのだ、ひたすら誘惑に負け続けることだったのだな。それにしても新聞って大切だなぁ。すっかり地に落ちてしまった朝日新聞、もうやめちまおうと何度も思ったのだけれど、こんなことがあるからやっぱりやめられない。家の者にはこの膨大な切り抜きはお棺の中に入れてくれるように言ってあるのだけれど、こんな記事がひょこっと出てくるのだから、きっときっと僕の天国ライフは楽しいものになるに違いないと思っている。で、明日は映画に行こうか、仕事をしようかと迷っていたのだけれど、山内マリコの「あのこは貴族」を見に行こうと決めた。朝日新聞役に立つなぁ。 
しばらく酒を抜こうと思ったその夜に、「一杯どう?」なんて誘いがかかると、昼間の決心はどこへやら、いそいそと出かける自分がいます。そして一杯が一本に・・・・ 
でも、カメがヘビになろうとしても無理なように、人もまたそれぞれなのだと開き直りました。そしてある工夫をしたことによって、自己嫌悪がすっかり消えてしまったのです。 
僕のように誘惑に弱い人は、最初からスケジュール帳に、誘惑を書き込んでおけばいいのです。勉強や仕事は一日の半分に抑え、残りはバラ色の誘惑時間とする。映画、カンツォーネ教室、世界のウェブサイト探検、新しい居酒屋の探検といった具合に、飽きる暇がないほどに誘惑を詰め込んでやるのです。そしてそれを確実にこなしていく。お金もかかるのでこれは大変なことなのですが、山盛りの誘惑を全てやり遂げた日の気持ちよさはは格別です。なんだ、やればできるんじゃないかと、立派な人間になったような気分にさへなります。生涯をこの姿勢で貫くなら、偉大なる趣味人として成熟していくことでしょう。出世や蓄財とは無縁であっても、味わいと彩りに満ちた人生がそこにあるはずです。もちろん、時には、「こんなにぶらぶらしていていいはずがない。仕事に舞い戻らなくては」と悪魔の囁きが聞こえてくることもあります。しかし、その種の誘惑に負けてはいけません。いえ、負け続けることで、勝つのです。 
2011年8月8日月曜日、朝日新聞朝刊 生きるレッスン 明川哲也「誘惑に負けない」より

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