『人と人との出会いは、必ずその痕跡を残す』


いいお顔をされている方だなぁと思ったら、ぼくの大好きな絵本『パシュラル先生』を出している、すえもりブックスの末盛千枝子さんでした。

この記事を読むまでは、末盛さんて、彫刻家の故・舟越保武さんの娘さんだから、とびきりのお嬢さんなんだろうなぁ、だからこんなにおっとりした絵本の出版社がやっていけるのだなぁと思っていました。

でも、とんでもない誤解だったのだと知りました。6歳の時に8ヶ月の弟さんを病でなくされ、20代で親しいお友だちを事故で失われ、そして42歳の時には、二人の幼い息子さんを残してご主人が、突然の病で逝かれてしまいます。

それでもまだ止まりません、昨年は、すえもりブックスが経営難に陥り、七転八倒の末、東京のご自宅を手放され、それも再婚された脳出血の後遺症でリハビリ中のご主人と、脊椎損傷で車いす生活のご長男と一緒にお父様がお気に入りだった盛岡の夏の家に移り住まれます。七転八倒のご決心だったようですが、ある日「そのようにしなさい、ということなのか」と思えたら、決心がつきましたと言うことです。

そして、ようやく落ち着かれた頃の大地震、なんと言う人生でしょう。
とてもその柔らかなたたずまいのお顔からは想像もつかない、人生を送ってこられたようです。その末盛さんが今懸命取り組まれているのが、被災地に絵本を届ける活動『3・11絵本プロジェクトいわて』です。

津波で自宅を流された幼い子がいつも読んでもらっていた絵本を指差して喜んだのを見て、希望を持ち続けるために、今こそ絵本や詩の出番だと思われたそうです。
そんな末盛さんを今まで支えてきたは、遠藤周作さんに言われたと言う言葉だそうです。

『 なぜ死んだのかと嘆くばかりでは、亡くなった人も無念でしょう、私は彼らからたいまつを引き継いでいると思っています。それが、生きる時間を与えられているものの責任だと思うのです。』

もう一度、末盛りさんの穏やかなお顔を見つめてしまいました。

2011年9月5日朝日新聞夕刊より