石牟礼さんはこういう男のもとで育った。

小っちゃな本だったけれど、たいせつな本だ。

2014年8月31日
石牟礼さんに少しだけ近づけた。ずっーと遠くで見ていた。ふつうの人だった。毎日の食卓をたいせつにして、おいしいものを賑やかにみんなで食べるのが好きだった、そのうしろには海が有り山があり畑があり、当たり前の風景があった。
「貧乏、ということは、気位の高い人間のことだと思い込んでいたのは、父を見て育ったからだと、私は思っている。
まったくこの人は、どん底の人だったけれども、卑屈さのかけらもなく、口惜しまぎれの言説というものも吐いたことのない人間だった。口をついて出てくることは、全身これ人間的プライドとでもいうべきものに裏打ちされていた。
思い出してもおかしさがこみあげてくるが、なにか正論を吐かねばならないようなとき、居ずまいを正してこういう名乗りを上げるのである。
ようござりやすか。儂ゃあ、天領天草の、ただの水吞み百姓の倅、位も肩書きもなか、 ただの水吞み百姓の倅で、白石亀太郎という男でござりやす」食べごしらえ おままごと、石牟礼道子、中公文庫
石牟礼さんはこういう男のもとで育った。