『第9番合唱付き』

オペラシティー交響曲第9番に行ってきた。年末にベートーベンの習慣はなかった。でもなぜか、今年は行った。

このコンサートホールの客席は演台をぐるっと囲む。桟敷席の向かいには向かいの桟敷の人々、斜め下には、打楽器奏者たちが並ぶ。

すこしづつすこしづつ走り続け最終楽章中盤、ようやく立ち上がったトライアングル奏者、しっかりと足を踏ん張って。一心の連打が、彼女なりの祈り思えた。

ひどいことが起こった年。ある種の音楽は、ずっと人間たちに寄り添ってきたのだろう。そのどのことよりもひどいことが起こりつつあるのかもしれないけれど、それでもそれに拮抗する力が世界のどこかにあるのかもしれない。

向かいの桟敷席の人々、その思いはわからないのだけれど。on readingと言う写真集がある。本を読む人ばかりを集めた写真集。これほどたくさんの音楽を聴く人々を正面から見据えるのは初めてだ。on listening そんな写真集が生まれればいいのに。

年の瀬には『第9番合唱付き』を、新年には『美しき青きドナウ』を。
あと何年生るのだろう? いずれにせよ、そんなに多くはないとすれば、今からでも遅くない、毎年のこのマンネリズムを味わい尽くしたい、そんな心持ちの年にようやくなった。