僕はいつも大騒ぎしながら

  • 「遊園地の木馬」を読んだ。池内さんはひたすら「さりげなく」生きてきた。自分にはできないものだから、ついつい池内さんを読んできた。そんなことだからこの本でも取り立てて棒線を引きたくなるようなところは出てこない。それでも漢方薬のようにじんわりと効いてくる。池内さんは5年前に静かに息を引き取った、最後の最後まで池内さんらしく。
    さりげないのが好きだ。仕事にも、人との出会いと別れにも、ことごとしいのはまっぴら。その手の人は敬して近づかない。権力や権威めいたものとは、なろうことなら縁なしでいたい。浮世の義理は八分がた果たしたような気がするから、ある程度の我がままは通していい。テレビもパソコンもないが、別に不便はない。車はなくとも丈夫な足がある。服は一張羅がひとつで足りる。住居があちこちほころびてきたが、まだ当分は持つだろう。おかず一、二品で満腹するだけの修行はしている。 ー といったことが、しめくくりのご挨拶。「遊園地の木馬」も、これでお別れ。
    「遊園地の木馬」池内紀著 p.258