ずっと憧れていたのに

アメン父」を読んだ。これまで何人かのおじさんに憧れてきた。田中小実昌さんは僕のおじさん遍歴の中でも最初期に憧れた人だ。あの飄々とした風情が好きだった。「アメン父」で田中さんが牧師だったお父さんのことを書いている。伝記でも思い出話でもなく、あくまで淡々とキリスト者であったお父さんのことを振り返っている。小実昌さんの人生にも種助さんの人生にも取り立てて劇的なことが起こるわけではない、それでも淡々と自分を信じて生きた父と息子。ずっと憧れていたのに小実昌さんの本を読んだのはこれが初めてだ。小実昌さんといえば、映画やお酒やバスの旅を描いたものが多い。やっぱり映画見なきゃだ、旅しなきゃだ、飲まなきゃだなぁと思った。そして久しぶりに10年以上前に逝った父のことを思った。
「かるく、かるく・・・というのは、たえず父が口にしていたことだが、かるい牧師というのも、そのころでははやらなかったのではないか。・・・父はなにか身につけるのはきらいだった。かるいものを父は好んだのではない。なにもなくてかるいこと、からっぽを父はのぞんだのだろう。」p.66
「ここに、スイートピーがたくさん咲いていたことがある。スイートピーの蔓がならんでのびあがり、花の壁ができたようだった。ぼくは菊やバラなんかより、あっさりして。にぎやかな彩りのスイートピーの方が好きだった。」p.116