手紙の時代をかろうじて生きてきた僕たちは

はじめ、探偵小説かなと思った。チャリング・クロス街84番地なんてタイトルを見て。だからちょっと縁遠いかなと思ったのだけれど、「マークス社御中 貴社では絶版本を専門に扱っておいでの由、・・・・1949年9月15日 ニューヨーク東95丁目14番地 ヘーレン・ハンフ」から始まるページを目にして、大西洋を間に挟んで20年の間やり取りされた書簡集だったのだと知った。こんなにゆっくりとした時間が流れていてユーモアがあって気品があって、こんな手紙の時代はもう二度とやってこない、こんな世界が失われてしまっていいのって思った。この本は本屋さんの本でもあって、本についての本でもあった。手紙や本や本屋さんや、そしてペンやインクや封筒やそしてハガキといった世界が失われていいのって思った。手紙の時代をかろうじて生きてきた僕たちは幸せな世代だったのかもしれない。

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