どんな絶望の中にあっても遠くに光が見えるような見えないような

  • 寒くて寒くて、暗くて暗くて、寂しくて寂しくて、そんなロシアの平原の中をひたすら走り続ける寝台車を舞台にした物語だ。かつて北海道の学校に通っていた時、生家のある大阪と札幌との間を大阪発青森行き夜行寝台急行「日本海」に乗って何往復もした頃のことを思い出した。狭い狭いかいこ棚形式のベッドから降りて、長い夜が明けてようやく明るくなった窓の外を見ると一面の銀世界で、その景色のあまりに寂しいこと寒そうなことと言ったらなかった。それでも列車は終着駅青森にはまだまだ着かなくて、ひたすら走り続けていて、一体いつになったら着くのだろうと絶望的な気持ちになった。
    アメリカ映画でもフランス映画でもなくてフィンランドアキ・カウリスマキの映画が好きだった。日頃伝え聞く幸福そうな福祉の国の北欧ではなくて、とにかく暗くて寒くて寂しくて人々は終始硬い表情をしていて、わぁ困ったなぁ、明るくてロマンティックな映画が好きなんだけどなぁと思いつつも、でもそんなフィンランドの映画が好きだった。この 「コンパートメントNo6」もそんなフィンランド映画の伝統を引き継ぐ映画だった。どんな絶望の中にあっても遠くに光が見えるような見えないような、まさに長距離夜行列車が赤いテールランプの光を残しながら淡々と走り続けていくようなそんな映画だった。あの無表情な車掌のおばさんは、何も語らないけれどとにかく我慢強く寡黙に生きるのよと教えてくれていた。
    https://www.youtube.com/watch?v=CHz6J2ZfaBY