ただただ花の名を羅列し

岩波文庫漱石日記」読了。最晩年をどんな風に書くだろうと思っていた。ロンドンなんて、と発奮し、修善寺での闘病生活を吐露し、明治天皇崩御の報のあり方に正論を述べ、鏡子夫人をしかり、そして大正五年十二月九日、四十九歳十か月で死去するちょうどその五か月前、さいごに近い日記で、ただただ花の名を羅列し、小さな庭の風景を描いた。容赦のない近代批判を展開してした漱石さん、晩年、花に、庭に、寄り添っていた事がうれしい。

大正五年」七月九日(日)
小宅の庭前。
鳳仙花。花(赤い)さく。
わすれな草。薄いラヴェンダーカラーの五弁極小。
孔雀草。黄八弁の本(黒赤)
小桜草。
われもこう。
葉鶏頭。長さ四寸ほど。
菫。三寸ほど。花あり濃紫。
新菊。
おいらん草。
おしろい草。まだ咲かず。八月さく。
百合。
カンナ(まだ咲かず)。咲いたのもあり。
虎の尾(五寸ほど)。
きりん草。
岩波文庫漱石日記」p.231~p232より