だとすると前者のほうがいいに決まってる

森田童子が亡くなった。とっても彼女らしく、ひっそりと。一年に何回は必ず森田を聞く。改めてこのタイトル「僕たちの失敗」すべてこのひとことで言い表せるような気がする。たくさんの深い失敗と、少しだけの浅い成功と、だとすると前者のほうがいいに決まってる。
https://www.youtube.com/watch?v=iER-NZ7GoM8
https://www.youtube.com/watch?v=_KVuJT3Z3z8
2018年6月20日朝日新聞夕刊 黒木瞳のひみつのHちゃんより
こんなに泣いたのはいつ以来だろう。森田童子の歌を聴きながら私はひとりで泣いた。シンガー・ソングライター森田童子さんが亡くなったということを記事で知り、私は彼女のCDをかけた。
 彼女を知ったのは、兄の影響だったように記憶している。兄は高校生だった私に、こんな人がいるよと教えてくれた。私は、うちの町に初めて出来た“レコード屋”さんに行って、森田童子のLP盤を買った。囁(ささや)くような声で歌うその楽曲全て、私の琴線に触れ、アルバムが出るたびに彼女のレコードを買った。
 高校3年生のときには久留米市の文化センターでコンサートがあって、BFと行った。彼女が女性だと知ったのもそのとき。無気力を魂で追い払おうとする気迫、今このときを生きようと必死でもがいているような歌声を、私は今も忘れない。
 三島由紀夫を読み、芥川龍之介を読み、私は、彼女の歌詞に出てくる意味を必死で理解しようとした。彼女が一番大切にしていたものは、命と友人。きっと、そう思う。
 私はそういう高校時代を経て宝塚に入ったのだけれど、その話をすると、「あなた、暗いね」とよく言われた。確かに、彼女の歌にはネガティブな言葉がたくさん出てくる。でもそれを払拭(ふっしょく)するようなエネルギーが全曲にみなぎっていた。歌は、何かを求め、何かを探し、何かに焦がれていた。夢はみるものではない、将来は自分で決められるものではない。だからこそ、目の前のなにをすればいいかを私に考えさせてくれたものだ。たとえ人に暗いねと言われても私が笑っていられたのは、彼女の歌で力をもらっていたからだろう。
 幼なじみが何十年かぶりにメールをくれた。森田童子さんの訃報(ふほう)を知ったら私にメールをしたくなったのだという。私の好きな人を覚えていてくれたことも嬉(うれ)しかったけれど、こうやって彼女と繋(つな)がっていたことがなにより嬉しかった。
 一度、会いたかったな、森田童子さんという人に。青春の扉がまたひとつ、閉じてしまった悲しさは、言葉にはできない。