散歩に違いはあるものか

この本がこんなに好きだったんだ。その後こんな風に思える小説を読んでいない気がする。 「火山のふもとで」が素晴らしかったのか、僕が探していたものがこの本の中にあったからなのか。どっちだろう?浅間山麓、小さな仕事場、ルノーらしき車。そういえば松家さんが新しい本を書いていたことを思い出した。

2013年3月18日
月曜日の朝だ,しかも空はどんよりしている、であるから朝から元気がない,あれもしなきゃこれもやらなきゃ,それでもシャッターを開けて,電気をつけて,ラジオをつける頃には,おもむろにさぁまたやるかと言うことになってくる。きのうはいい本に出会った。「火山のふもとで 」松家 仁之著。1980年頃のアトリエ系建築設計事務所の夏の家の日常が淡々と描かれている。浅間山山麓の自然のことや,フランク・ロイド・ライトにタリアセンで教えを受けたという老建築家と新人スタッフ等のやり取り。アトリエ系建築設計事務所のよき時代がほとほとうらやましい。同じくおんぼろアトリエ系事務所を主宰するも,この違いはなんだ。それでも、今朝事務所への途中、団地の木々のしたを歩きながら,浅間山麓ではないけれど,老建築家が日課にした散歩に違いはあるものかと,むりやり納得しようとするじぶんがいた。今週は「火山のふもとで 」とともに歩こうと思う。

2013年3月19日
「火山のふもとで」を読了した。ほんとうの人生みたいだ。小説と言うのは,ほんとうの人生みたいじゃないと思っていたけれど。この小説はほんとうの人生みたいに味わい深くて,いとおしくて,静かだ。しごとと言うのはこんなふうにすべきものだし。家と言うのは,こんなふうに伝え受け継がれていくべきものだし,恋愛と言うものもこんなふうにかろやかでちいさなものでなくてはいけない。そして全編いつも鳥の声が聞こえてなくてはいけない。