生まれるときは緑がさぞかしきれいだろうって

「おじいちゃんの先生がね、子どもが生まれるときは緑がさぞかしきれいだろうって言ったの」きっとそうだよ。おじいちゃんの先生いいこというなぁ。

 

2022年1月16日

先週、「八日目の蝉」を読了した。凄いな角田さん、角田さん読むの初めてだった。これからも読むか迷ってる。怖い作家だと思ってる。ぐいぐいと抉り出してくる。そんなに抉り出さなくてもと思う。そこは曖昧に誤魔化しておこうよと思う。でも角田さんはぐいぐいと踏み込んでくる。この本のことは書けない。というかどんな本のことも書けない。静かに線を引いたところを引用することぐらいしかできない。

「病院に調べに行ったときも、その場で手術の日取りを決めるつもりだった。だけどね、千草、おじいちゃんの先生がね、子どもが生まれる時は緑がさぞかしきれいだろうって言ったの。そのとき、なんだろう、私の目の前が、ぱぁっと明るくなって、景色が見えたんだ。海と、空と、雲と、光と、雲と、木と、花と、きれいなものぜんぶ入った、広くて大きい景色が見えた。今まで見たことのないような景色。それで私ね、思ったんだよ。私にはこれをおなかにいる誰かに見せる義務があるって。海や木や光や、きれいなものをたくさん。わたしが見たことのあるものも、ないものも、きれいなものはぜんぶ」遠くから聞こえる声は、まるで自分自身を慰めるみたいに響いた。「もし、そういうもの全部から私が目をそらすとしても、でもすでにここにいるだれかには、手に入れさせてあげなきゃいけないって、だってここにいる人は、わたしではないんだから」p.354

凄いなぁ、これ。でもこれくらいの覚悟を持って生きなきゃだと思う僕たち大人は。角田光代さん、これからもお手柔らかに。