またいつかコッツウォルドを歩く日が来るだろうか

中学生の頃、北海道に行って牛飼いになろうと思った。当時乳牛にモーツァルトを聴かせると、良質の牛乳が出ると言われていた。これだと思った。モーツァルトの流れる牧草地、いいなぁと思った。それで北海道に住んだ、でもすぐに牛飼いじゃ食べられないとわかった。それでも酪農への憧れはずっと持ち続けていた。そんなところにこの本に出会った。この夏も暑かった、どこか涼しいところに避難しようとこの本を手に取った。青空と雲と羊の群れとどこまでも続く牧柵と、そんな世界が描かれていると思っていた。でも違った、血と泥と糞尿と寒さと蠅と重労働の世界が描かれていた。かつて、この本の舞台となる湖水地方を歩いたことがある。世界にこんな素晴らしいところがあるのかと思った。でもその時、血と泥と糞尿と寒さと蠅と重労働の世界は目に入らなかった。この本を読んでようやく、天国と地獄は表裏一体なのだなぁと思った。仕事についての家族についての伝統についての風景についての自然保全について書かれていた。またいつかコッツウォルドを歩く日が来るだろうか。
三人の子供達、モリー、ビー、アイザックーただ私の子供でいてくれること、ただそばにいてくれることに感謝したい。君たちがファーマーになろうがなるまいが、どちらでも構わない。ただ、この本を通して私たちのことをより深く理解し、私たちが何者なのかを知りーそれに誇りを抱いてー外の世界に出て行って欲しい。きみたちの頭や心にあるものを、大人たちが奪い去ることはできない。どうか、自分の中にある大切なものを忘れないで欲しい。「羊飼いの暮らし・イギリス湖水地方の四季」ジェイムズ・リーバンクス著 P.403

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