わたしが一番きれいだったとき  茨木のり子

やっぱり,去年書いていた。

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茨木のり子展に行ってきた

入ったところに大きく壁一面に赤い字で書いてあった。こんな大きな茨木さん、読んだことなかった。大きな茨木さんとてもよかった。 こんな時代だからこそ、茨木さんに会わなきゃだ。

わたしが一番きれいだったとき

街々はがらがらと崩れていって

とんでもないところから

青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき

まわりの人達が沢山死んだ

工場で 海で 名もない島で

わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき

誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった

男たちは挙手の礼しか知らなくて

きれいな眼差だけを残し皆(みな)発っていった

わたしが一番きれいだったとき

わたしの頭はからっぽで

わたしの心はかたくなで

手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき

わたしの国は戦争で負けた

そんな馬鹿なことってあるものか

ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき

ラジオからはジャズが溢れた

禁煙を破ったときのようにくらくらしながら

わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき

わたしはとてもふしあわせ

わたしはとてもとんちんかん

わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに

年とってから凄く美しい絵を描いた

フランスのルオー爺さんのように ね

http://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html