こんな時代があったのだ

こんな歌があったのだ、こんな歌を前に旅し続けていたのだ、大きなキスリングを背負って、かに族と呼ばれて、ヒッチハイクを繰り返して、駅の庇を借りて野宿して、この歌が生まれたという礼文島・桃岩荘にもハマった、ユースホテル全盛の時代、歌って、踊って、皿洗いして、恋して、泣いて、ちぎれるほど手を振って、なんたるセンチメンタル、こんな時代があったのだ、でもこんな歌知らなかった。でもこんな旅だった。「ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい」ポール・ニザン、そんな言葉をまなじりを決して繰り返していた。
2012年11月3日朝日新聞朝刊「うたの旅人、時を超え響く歌声の奇跡 船橋俊久「旅の終わり」」より
http://www.youtube.com/watch?v=gJBbtm7Qsgs