これは空虚なんかじゃない

ロラン・バルトが「わたしの語ろうとしている都市(東京)は、次のような貴重な逆説、<いかにもこの都市は中心をもっている。だが、その中心は空虚である。>を示してくれる。禁域であって、しかも同時にどうでもいい場所、緑に蔽われ、お濠によって防御されていて、文字どおり誰からも見られることのない皇帝の住む御所、そのまわりをこの都市全体がめぐっている。」
この言葉を聞いた時、哲学者というのはなんと頭のいい人たちなんだろうと、ずっと忘れないで来たのだけれど、きのう安野光雅が描いた「御所の花展」を高島屋に見にいって、日頃うかがい知れない御所の中の風景を見た。それはヤマボウシやワレモコウやユウスゲやミズヒキやムラサキシキブサンシュユやマンサクやガマズミやアケビやナツツバキや、そんな花々が咲く雑木林のようなところで、ロラン・バルトが言う東京の空虚な中心とはこんなところだったのだと知って、これは空虚なんかじゃない、バルトさんにもういちど、思考を深めてもらわなくてはならないと思った。そんな思考はとても楽しく愉快な作業になりそうで、いま新聞をにぎわしているオリンピックの皇室利用云々などよりもっと気持ちのいい論考になるのになぁと思うのだが。