売りものの本に手を伸ばして

古本屋のおじさんというのは、ひたすら暇だから売りものの本に手を伸ばして抜き書きなどして時間を潰すことになる。

「店内は、これから勤めに出ようという、時間に追われた客でごった返している。テーブルに座る人はない。顔馴染みどうし短く挨拶を交わすと、他の客たちの頭ごしに注文を言い、ぐいっと一息でコーヒーを飲み干し、小銭を置いて、足早に出ていく。それぞれ磨きあげた靴に濃紺や深いグレーのコート、流行色のスカーフや帽子をさりげなく合わせて小粋で、新しい一日に立ち向かう気合いの入った身なりをしている。」どうしようもないのに好き・内田洋子 p.6