僕にも弟子と呼べるような人がいるなんて

むかし僕の事務所に居たAくんが20年ぶりくらいに訪ねてきてくれた。むかしの僕は「ご飯はたくさんで食べる方がおいしい」と毛沢東の「人民の海」のような考え方に憧れていて、身の程知らずなほどたくさんの人を雇っていた。人数ばかりでなくその人たちはみんな変わりものばかりで、おまけに誰一人として専門教育を受けて来た人など居なくて、故に事務所は当然のように破綻した。だから彼らには大きな迷惑をかけた。それなのに今も遠路はるばる訪ねてきてくれて、今はニホンミツバチを飼ってますなんて、なんとも素敵な仕事をしているのだった。別に僕が誇るべきことではないけれどなんだかうれしい。だから今夜はいつもの銀寿司で、あさり汁を飲んでいる。
確か夏目漱石だったかが、人間関係のうちでもっとも素晴らしいのは師弟関係だなんてなことを言って居て、なるほどなぁと思ったことがあった。もしこんないい方が許されるなら、Aくんは僕のたったひとりの弟子なのかもしれない?僕にも弟子と呼べるような人がいるなんて、それがうれしい。