ひとりの人の人生を強く力づけたこの話を聞いて

今回訪ねた中で一番好きだったのはのイリヤエミリア・カバコフの「棚田」だった。この棚田の持ち主は、棚田で農作業する人を型どったカバコフの彫刻を見て、この地で農業を続けることに決めたという。芸術祭と言うと地域振興などと分かったような分からないような言葉と結び付けられるけれど、ひとりの人の人生を強く力づけたこの話を聞いて、この芸術祭の大きさを思った。農業の尊さを、働くことの嬉しさを、里山の豊かさをみんなまとめて一瞬にして誰もに分かりやすく伝える力をアートは持っているんだ。ちなみにこの作者イリヤ・カバロフはウクライナ生まれで、各国を転々とした後、今はニューヨークで制作する亡命アーティストだという。そんなことを後で知って、ウクライナと日本の雪深い山奥を結びつけてしまう力もこの芸術祭にはあるのだなぁと思った。