生まれてくること

川上さん「生まれてくること」について書いてるなと思った。渾身の力を振り絞って書いてるなと思った。人ってずいぶんずいぶん大きくなるものだなと思った。

自分の声が微かに震えているのがわかった。私は小さく息をして、善百合子を見た。
「忘れるよりも、間違うことを選ぼうと思います」p.631

その赤ん坊は、私が初めて会う人だった。思い出の中にも想像の中にもどこにもいない、誰にも似ていない、それは、私の初めて会う人だった。赤ん坊は全身に声を響かせ、大きな声で泣いていた。どこにいたの、ここに来たのと声にならない声で呼びかけながら、私は私の胸の上で泣き続けている赤ん坊を見つめていた。p.652 夏物語 川上未映子

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