年賀状、何案も何案もスケッチしているのだけれど、ちっともよくなくて、なんにも考えなくて、ささっと描いた一番初めのがやっぱり面白くて、まだだまだなぁと思っていたら、このあいだ読んだ「折々の言葉」を思い出してしまった。この間、そうだそうだと、うなづいていたばかりなのにもう忘れたの?そうだそうだと思ったのならそれはもっともっとずっーとたいせつにしなくちゃいけないのに。
最初の線は生きています。だから消してはいけません(図工の先生)
山登りの途中、立ち止まってスケッチをするのが好きな編集者・若菜晃子は、小学生の時、図工の先生によくこう言われた。ものをよく見て最初に手先が動いた瞬間の小さな発見を大事にしなさいと。例えばはじめて職場に立った時の微(かす)かな違和感も、組織の抱える問題点を言い当てていることがある。その小さな芽をすぐには摘まないように。随想集『街と山のあいだ』から。(鷲田清一)2018年12月19日朝日新聞朝刊「折々の言葉」から