春が来たらお花見しようって

土曜日はとても不思議な会だった。ぼくにとってたいせつな会になった。40余年前ほんの少しだけ一緒に仕事をしたことがあるOくんが余命半年と言われています、だからもう一度みんなに会いたいって言っています、Iさんからそんな電話が来たのは数週間前だった。えっ、どうすればいいんだろう、なんて声をかければいんだろう、僕に何ができるんだろうって、いろんなこと考えた、結論が出ないまま当日を迎えた。吉祥寺の居酒屋の前に0くんが現れた、えっと思った、40年前よりずっとかっこよくなっていた、はつらつとしていた。なにこれって思った。こんなことがあるんだって思った。少しづつ話した。あと半年だと聞いたから、じゃ毎日楽しく過ごそうと思ったそうだ。だからもう一度会いたい人たちとみんなで集まって一緒にお酒を飲みたいと思った。そんな風に言った。そこには何の気負いもなかった。なんの悲壮感もなかった。当たり前のことを当たり前に言った。この人なんだろうって思った。すごい人だなと思った。死ぬということをどう考えるんだろうって最近よく考える。音楽があれば静かに受け入れられるかなぁと思ったりしていた。宗教に答えを見出す人もいるだろう。芸術に答えを見出す人もいるだろう。Oくんはそんなどれでもなかった。残された時間を、これまでに出会った愉快な人たちと一緒にお酒を飲んで過ごしたい、それで十分だと思うのだった。なんだか拍子抜けした、宗教でも、芸術でも、文学でも、そんなものじゃなくて、僕はこんな人たちと出会ってきたんだなぁ、そういう人たちともう一度楽しい時間を過ごせばいいじゃないかと、そんな風にOくんは思ったのだろう。Oくんをどうやって勇気づければいいんだろうなんて、なんておこがましいことを考えていたんだろう。Oくんはぼくより五つも下なのに、すごいやつだなって思った。春が来たらお花見しようって、土曜日は別れた。