ハイカラで美しいものが好きな彼が

木下杢太郎という人が好きだ。木下杢太郎が好きになったのも彼の文学的功績というよりも余技とも思われているかもしれない植物画集「百花譜」を偶然本屋さんで見かけたからであり、また杢太郎という名前がすてきだなと思ったからであった。だからこの本に惹きつけられたのも木下が描いたフウトウカズラをあしらった装幀が美しいと思ったからであった。それで読み進んでいったらこんなことが書いてあった。
「元来泥臭いイメージで使われる杢の字をハイカラで美しいものが好きな彼がわざわざペンネームに選んだというところに、中野重治は注目し「この人のハイカラがひととおりのものではなかった」とみるのである。ただ杢の字は木工、大工の意味を持つ。木を用いてなにかを作るという人ということから言えば、木(植物)が好きな正雄に似合わなくもない。彼は友人から「杢」さんと呼ばれるのを好んだという。」また「百花譜」についても「晩年の木下杢太郎の最も重要な仕事は「百花譜」と言って良いだろう。いや一生を通してみても彼が遺したもっともすぐれた仕事のひとつであるのは間違いない」とあった。
人を好きになるのには、いろんな理由があっていいんだと思った。もう今から僕に子供が生まれることはないだろうけれど、いつか孫でも産まれたら、この杢の字を使った名前にしたいなと思ってる。