ここで大事なのは、ひとこと

これはいい本だと思うから、鷲田さんはいい人だと思うから、夏の終わりの夕方ではあるし。ここで大事なのは、ひとこと「 ひとを愛し、そして文を愛し・・・・」というところだろうな。
「 <老い>というのは、じぶんの〈弱さ〉に否応なく向き合わざるをえなくなる、あるいはそれに従わざるをえなくなる、そいう季節だと先に述べたが、この〈弱さ〉をぶっきらぼうに晒けだし、それに背を向けずに自分を組み立てなおしている老人もいる。言ってみれば、ダンディな老人、あるいは「不良」老人。呑んだくれ、ふてくされ、歳も構わずに好きなことをやり、ときに顰蹙もののこともやってのけて、他者に面倒をかけ、「ありがとう」という短い言葉を残して彷徨し、時代に反抗するというよりは超然として、ひとを愛し、そして文を愛し、・・・・・などと書くと、わたしには金子光晴田村隆一といった詩人の像が真っ先に浮かぶ。」「 老いの空白」鷲田清一