素敵な気がすうっと流れただけ

茨木さんはいつも鋼のようにまっすぐでぴしゃりとしておられるのだと思ってきたのだけれど、ちょっと知らない茨木さんがいた。
「 ただ透明な気と気が/触れあっただけのような/それはそれでよかったような/いきものはすべてそうして消え失せてゆくような」茨木のり子 詩集「歳月」から
自他がせめぎあうところに二つを分かつ膜ができる。膜をはさんでこっちに私、向こうにあなたが立つ。ほんとうは私もあなたも存在せず「素敵な気がすうっと流れただけ」かもしれないのに。もし膜がすきまだらけだったら、もっと通いあえたのに、人はそのすきまを塞ぐことでしか自分を護(まも)れないと思っている。鷲田清一 2017年3月8日朝日新聞「折々のことば」から