ようやくぼくの手元にやってきて

これまで古書に対して強い思い入れがあった訳ではないのだけれど、今朝ちょっと早く目が覚めて、この間松陰神社前で手に入れた広津和郎の「壁の風景画」を読んでいて、これまであまり経験したことのない心持ちになっていた。出版されたのが昭和26年で、書かれている物語は大正末期、ほんの40ページほどの短編なのに大正時代のお金持ちの世界の人になっていた。物語りから30年ほどして出版されてそのあとまた60年ほども経て、ようやくぼくの手元にやってきて、もう破れそうなくらい劣化したこの青い本が持つ長い時間の流れがひどくいとおしく感じられて、本というのはなんとも悠然とした時間を包み込んでいるものだなぁと今ごろになって知ったのだった。