六月 

ここ数年ほど6月になると読むことになってしまった。いつまで続くのだろう。いつまでも、いやもう来年あたりにはやめてしまうのかもしれない。「黒ビール」もいいし、「食べられる実をつけた街路樹」も、でもなんといっても「同じ時代をともに生きるしたしさとおかしさ」がいい。

六月    
                 茨木 のり子         
どこかに美しい村はないか
一日の仕事の終わりには一杯の黒ビール
鍬を立てかけ 籠をおき
男も女も大きなジョッキをかたむける

どこかに美しい街はないか
食べられる実をつけた街路樹が
どこまでも続き すみれいろした夕暮れは
若者のやさしいさざめきで満ち満ちる

どこかに美しい人と人との力はないか
同じ時代をともに生きる
したしさとおかしさとそうして怒りが
鋭い力となって たちあらわれる