どうだい?大人って大変だろう

毎年成人の日に楽しみにしていることがある。成人の日の朝刊に伊集院静のコラムが出る。サントリーウィスキーの宣伝だけれど。もう成人式を3回以上も経てきているぼくなどに書かれたものではないけれど,3回目でも4回目でも,読み続けていたい。

「むかい風を歩くんだ」
成人おめでとう。
今日からみんな大人だって?そんなはずがない。
一日で大人になれるわけがない。
どうしたら大人になれるかって?
こうだ、という答えはどこにもない。
その上、大人になる近道もないし、
特急券も売っていない。
まずは家を出て、一人で風の中に立ちなさい。
そうして風に向かって歩き出すんだ。
歩きながら自分は何者かを問いなさい。そうすれば君が
まだ何者でもないとわかる。それでも一人で歩くことがはじまりまりなんだ。
上り坂と、下り坂があれば、上り坂を行くんだ。
甘い水と、苦い水があれば、苦い水を飲みなさい。
追い風とむかい風なら、断然、むかい風を歩くんだ。
どうして辛い方を選ぶかって?
ラクな道、甘い水は君たちに何も与えてくれないし、
むかい風の中にだけ他人の辛酸の声が聞こえるんだ。
真の大人というものは己のためだけに生きない人だ。
誰かのためにベストをつくす人だ。
金や出世のためだけに生きない、卑しくない人だ。
品性のある人こそが、真の大人なんだ。
どうだい?大人って大変だろう。しかしそうでもないさ。
ひと休みに一杯やれる。さあ大人に向かう君と乾杯。
大人にむかう君と乾杯。
2015伊集院静